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発達障害ってなぁに?シリーズ最終回『発達障害を理解することは「人」を理解すること』

2018.06.25(mon)

「発達障害ってなぁに?」シリーズもいよいよ最終回です。「誰だって発達障害!?」の視点に立ち、これまで色んな子どもたちに思いを馳せてきました。最終回では、発達障害とは切っても切り離せない「二次障害」に触れながら、「発達障害ってなぁに?」の問いに迫っていきたいと思います。

怒られる子、嫌われる子 ~A君のはなし~

私が出会ったA君は小学5年生。教室をのぞいてみると、あるときはふんぞり返って先生に悪態をつき、あるときは彫刻刀で机に見事な作品を彫り、ある時は音楽室で合奏の音に耐えられずにシンバルの子を殴っていました。先生は対応に苦慮していて、友だちなどおらず、体の大きな彼は自由に振るまっているように見えて、とても寂しそうで、私は不甲斐なくもその姿に涙がでました。

これまで彼が過ごしてきた日々を聞き取ってみると、それは怒られ、嫌われる学校生活でした。1年生の時は椅子に座っていられず、厳しい先生に一日中怒鳴られていたそうです。それでも遊びのリーダーだった彼は、面白いいたずらを考えてはクラスの子たちを引き付け、人気者だったとのこと。それも束の間、怒られっぱなしの彼に対して、少しずつ大人になっていったクラスメートは距離を取り始め、3年生の頃には周りに誰もいなくなりました。そのことは彼の心に大きな傷を抱かせました。

私と二人で話すときの彼は穏やかで、いつも「迷惑をかけてる」とお母さんのことを気にしていました。でも「こんな風にしてみたら?」という私の提案には、ことごとく「どうせ俺なんか何やっても怒られる」「どうせみんなに嫌われているから無駄」と、まるで受け入れてはくれません。

「どうせ俺なんか」という思い ~「二次障害」~

彼がもつ特性として、「脳のアンテナが人一倍ビンビンたっている」ということが考えられます。「多動」や「衝動性」という言葉もありますが、とにかく刺激(楽しいこと、トラブル、音など)に敏感で、心も体もじっとしていられません。だから、低学年の時にはじっと座っているのは苦手だったし、遊びのリーダーだったし、今も音楽の時間は苦手です。でも5年生のこの彼の姿は、特性のみが原因なのでしょうか。もし低学年の頃、少しでも彼の行動に思いを馳せてくれる人がいたら?遊びのリーダーの才能を評価して、いたずらではない所で発揮させてあげられたら?みなさんでしたら、彼の違う5年生の姿を想像できるはずです。

怒られ、嫌われた結果、どうしようもなく自分を持て余し、不適切な行動を繰り返すA君。自己評価が著しく低く、新しい自分の姿を想像できず、前に進めないA君。それは本来の特性を越えて、彼の周りの人々や環境が原因の「二次障害」であると私は考えます。

心が一番大切 ~迷わずに守っていく~

低学年の頃のA君に対して「授業中にじっと座っていなさい」ということは、脳の特性上とてつもなく難しいことです。そんな無理難題を押し付けられながらも、その場に適応しようと必死にかんばっていたことでしょう。それなのに怒鳴られたり、ため息をつかれたり、あきらめられたりすることで、心を壊さない子どもがいるでしょうか。

忘れてはいけないのは、「発達障害」と言われる子どもたちは、社会性の低さを指摘されながらも、彼らの行動を包みこんでくれる集団においては確実に育ち、豊かな人間関係を構築しながら社会生活が送れるとされています。つまり安定・安心できる場所では、彼らなりの方法、速度で発達し、周囲の環境と自らの特性をすり合わせていけるようになるということです。

どうか、どうか、それまでの間、心を壊さないであげてほしい。心が安定し、自分を大切にできれば、特性上うまくいかないことがあっても、自分を認めて前に進んでいく力は育っていくはずです。

「発達障害」とは私たちが作りだすもの?

私たち社会は「こうであるべき」という枠組みをたくさん抱きながら生きています。そうでなくては秩序は保てませんし、それ自体が悪いとは思いません。けれど、その枠組みにどうしても入れない人がいた場合、その人たちに思いを馳せることは枠組みを抱く私たちの責任ではないかと私は考えます。

特にそれが子どもだった場合、その子の行動を観察し、思いを馳せ、理解し、工夫し、枠組みを広げたり、変化させたり、あるいはその枠組みを丁寧に示したりするのは私たち大人がするべきことです。その中でどの子どもたちも伸び伸びと発達していくのが理想の姿だと思います。

「発達障害では?」と言われて私のもとにくる子どもたちは、ほとんどが私の考える二次障害を抱えています。もはや、特性の問題ではなく、その特性を理解せずに対応を誤った大人たちが作り上げた姿とは言えないでしょうか。

すべてのお母さんへ

A君のお母さんは学校にたくさん呼び出され、そのたびに謝ってきました。私と会って何回か経ったときに「でもね先生、こんなこと言ってなんですけど、あの子、とても優しいんです。」とおっしゃいました。私が「知っていますよ」というと大きな声で泣いていました。初めて他人の前で、自分の子の良いところを話したそうです。この出来事で、A君自身に大きく光が差しました。お母さんが自信を取り戻し、担任の先生と向き合い始めたのです。今ではクラスの「ちょっと困ったところはあるけれど、気が優しくて力持ち!」のA君です。

お母さんが持つ子どもへの影響力は計り知れません。「いつも太陽!」でいなくてよいから、我が子に思いを馳せる壮大な旅を続けましょう。同じ行動を「大変」「心配」と感じて怒ったり悲しんだりするのか、「おもしろい!」「ユニーク」と捉えるのかでは大違い!!旅は楽しんだもの勝ち。そして…「子育ての旅」は思うほど長くはありません。

「発達障害ってなぁに?」その答えは、みなさんそれぞれの旅の中にあるように思います。「なぁに?」と考えたその時から、旅は始まっています。さぁ、bon Voyage!! 良い旅を!!

文/臨床発達心理士 三浦 静
記事/ママトコタイム

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この記事は「ケノコト」に掲載しています。
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